シェルコのラジエーター改善


ラジエーターの中には冷却水が入っていて、エンジン熱で温度が上がり沸騰まではいきませんが容積が膨張して、結果的に「加圧」されています。エンジンを切ると熱が下がり、結果、加圧がなくなり圧力ゼロになります。
まあ、ラジエーターの内部はこの「加圧→ゼロ圧→加圧→ゼロ圧」を、繰り返しをしていると思ってください。

正しく言うと「サーモスタットを介して呼吸している」のですが、これは無視して話を進めます。
何故、加圧しないといけないのかは、ラストで解説します「ダーウィンとビーグル号」で荒っぽくご理解してくださいね。

加圧する、となると密閉されているはずのラジエーターですが、オーバーヒートして蒸気が噴きださなくても、内部の冷却水は「どこからか」外に出て行き、量が少なくなります。つまり、冷却水は必ず減ってくる、とこれも思ってください。
技術の粋をかけて作られた今の最新鋭のそうりゅう型潜水艦でも、海水がどこかからか入ってくるのと同じです。

知らない間に冷却水が少なくなってくると、当然のように冷却能力が落ちてオーバーヒートしてエンジン性能に悪さをします。

乗用車のように場所に余裕があれば、自動的に冷却水を補充する予備のタンクがありますが、小さなトライアルバイクでは無理。
こうなると、けっこうひんぱんに冷却水の点検をする以外に手立てはありません。

どのメーカーのバイクも冷却水の点検は、冷却水を入れるラジエーター上部のふた部分から簡単に見る事が出来るのですが、これはBeta-Evoのラジエーターキャップ。取り外し締め付けは、いとも簡単です。

ところが’17年までのシェルコは悲惨で、「おいスペイン人、メンテのこと考えて設計しとんのか」ですよ。

黒い六角穴のあいたのがラジエーターのふた。

ところが、シェルコに限っては写真の通り、奥の奥に隠れるような場所にあるのです。シェルコのオーナーの方はこれが大変な作業なのですね。

① ラジエーターを固定している上下3本のネジをはずす。
② エキゾーストパイプをはずす。
③ ガソリンタンクをはずす。
④ ラジエーターの上側を後ろに少しずらす。

をしないと、冷却水を「入れる見る穴」部分が出てこないのです。
これが’17年までのシェルコですよ。

で、「こんなアホなことはやってられんわ」で、さすがのスペイン人も’18年タイプからはこのように右側フレームの隙間から点検作業ができるように簡単化されました。

’18年からの純正ラジエーターはL字型パイプ仕様ですが、一郎さん作はシンプルに直線タイプで、①番の陸くん選手のを自作改良し作ってみました。

写真で見るとフレームの隙間から少し飛び出しているように見えますが、これはそう見えるだけで実際はフレームの奥に追い込んであり、転んでこの部分を打っても大丈夫です。

見ての通り、業界用語で溶接部分が「イモ溶接」になっていますが、言い訳をさせてもらうと、このシェルコのラジエーターはアルミ製ですが溶接しにくいアルミ材質でして、一郎さんのように68歳以上の部/溶接技能オリンピック書類選考落ちする腕前をもってしても、この程度のレベルの溶接しか無理。

ラジエーターは加圧しないと性能を発揮しないのは、チャールズ.ダーウィンがビーグル号で南半球を200年前に世界一周して「種の起原」を書き上げた時代にさかのぼります。

高い山で飯を炊く料理をすると、まだ80度くらいなのに沸騰してしまい料理が作れません。これは気圧が低いせいです。
山の上でもない海の上でも、ビーグル号のシェフが台風や何かで気圧が下がり、その天候の状態で料理をすると同じく80度くらいで煮たぎってしまい、パンが作れない、野菜が煮えない芯が残る消化に悪い、十分に熱で殺菌できない、という事態にあいなりました。

この対策として、圧力鍋(釜)が生まれたのですが、その副産物として逆に「加圧すれば沸点が上がる」のを発見したわけ。つまり100度で沸騰する水も、加圧してやれば120度にならないと沸騰しない、ですね。
普通は100度以上の水は水蒸気になるのですが、この発見で120度の水を手に入れられるようになったわけ。

ラジエーター内部の冷却水も、何かの事でオーバーヒートしそうになった場合、なかなか沸騰しないでもちこたえて欲しいわけ。
加圧しておけば沸騰しにくいし、もう一つの利点、冷却水の泡立ちも、泡立ちを圧力で小さく抑える効果も出てきます。
ラジエーターは「圧力鍋」と同じと考えてください。

確認です。冷却水は自然となくなるから時々点検しよう、というのが本題です。

ダーウィンは「生き物は環境で適応するべく変化していく」の種の起原で有名なのですが、もうひとつ「ミミズは土地を耕している」を見つけた人である事も知っておいてくださいね。
今もよく言うでしょう 「ミミズのいる土地は肥えている」で、これを見つけたのではダーウィンでした。

民間人にはなかなかラジエーターのみを外しつらいですが、まあとにかくなんとか外して送ってくださいね。

スタンダードのラジエーターキャップ位置をふさぎ、フレーム右側からボルトオンで開け閉めできる位置にラジエーターキャップを取り付けなおします。

→ 5,000円  (バイク持ち込み、ラジェターはずし組み代別)

〒666-0143 兵庫県川西市清和台西1-1-7 Tel&Fax 072-799-0830
株式会社黒山レーシング:レーサー整備室長.黒山二郎